相続を放棄するか悩んでいる
- 亡くなった父には借金が多かったので相続したくない!
- 亡くなった父には借金があったという話しだけれど、正確には分からない!
- 相続を放棄したいが、いつまでできるの?
このようなお悩みがあるときはどうすればいいでしょうか?
相続は、被相続人の全ての財産を承継しますので、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続することになります。
特に限定をせずに相続を承認すると(単純承認)、借金等のマイナスの財産についても承継するので、相続人が返済をしなければなりません。
このようなマイナスの財産を承継したくないというときに利用できるのが、相続放棄、限定承認という制度です。
相続は承認か放棄かどちらかを選ぶことができます
相続開始(被相続人の死亡)の時から、プラスの財産、マイナスの財産の相続財産の全てが直ちに相続人に帰属します。
しかし、民法は個人の意思を尊重して、相続財産を承継するかどうかを選択する自由を保障しています。
相続人は、一定期間(熟慮期間といいます)内に、相続を承認・放棄することができ、それによって初めて、相続の効果が相続人に確定的に帰属したり、しなかったりします。
一般的な相続方法は単純承認
単純承認の意味
単純承認とは、相続財産を全面的に承継するものです(民法920条)。
法定単純承認の意味
積極的に承認するという意思表示をしなくても、相続人が自分のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内(熟慮期間)に限定承認や放棄をしなかった場合には、単純承認したとみなされます(民法921条2号)。
その他に、被相続人の土地を売却してしまった等、相続財産を処分した場合も単純承認したとみなされます(民法921条1号)。
これらは法定単純承認といわれ、単純承認は法定単純承認による場合がほとんどです。
単純承認の場合のマイナス財産
被相続人に多額の借金があったということが後から判明したとしても、単純承認されたとみなされる場合、その債務も相続しており支払わなければなりませんので、このようなことのないよう、被相続人死亡と同時になるべく早く、財産関係を調査しておくことが大事です。
財産関係が複雑で相続財産を調査するのに時間がかかる場合などは、家庭裁判所に請求することによってこの期間を伸ばしてもらえる場合がありますが、できるだけ早期に財産関係を調査するのが良いでしょう。
相続で得た財産の限度で負債を弁済する限定承認
限定承認の意味
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続するものです(民法922条)。
相続するプラスの財産もあるが債務もあるので、最終的にプラスになるかマイナスになるかわからないという場合に有効な制度です。
プラスの財産より債務の方が大きい場合でも相続財産の限りで債務は弁済されるので、それを超えて相続人が責任を負うことはありません。
反対にプラスの財産のほうが大きい場合には債務を清算した残りの財産を相続することができます。
限定承認をする際の注意点
相続人全員が共同してしなければならないので(民法923条)、相続人がまとまっていることが必要になります。
また、熟慮期間内に財産目録を調整して、家庭裁判所に申述し、債権者に債権の申出を催告するなどの手続を経て清算手続を行わなければならないなど、複雑な手続が必要なため、あまり利用しやすいものとはいえません。
全ての財産を受け取らない相続放棄
相続放棄の意味
相続放棄は、相続開始により生じた相続の効果を、全面的・確定的に消滅させる行為であり、放棄した相続人は最初から相続人ではなかったことになり(民法939条)、相続財産を取得しなかったことになります。
家庭裁判所への申述が必要ですが(民法938条)、財産目録の作成等の手続は必要ありません。
限定承認よりも簡単な手続で認められるので比較的利用しやすいといえます。
放棄した相続人は一切相続の効果が認められないことになり、その子どもが代襲相続することもありません(その分他の相続人の相続分が増えることになります)。
また、一度放棄してしまうと、熟慮期間中でも撤回は認められませんので、まず、被相続人の財産の調査をできるだけ早期にしておきましょう。
被相続人に多額の債務があることが確実である場合やプラスの財産がそれほど多くなく、債務があるかわからない場合、プラスの財産があるが相続人の間でかなり争いそうなのでかかわりたくないというような場合には有効な制度です。
未成年者の相続放棄
被相続人が多額の借金を残して死亡し、妻と幼い子どもが残された。
この場合、未成年の相続放棄はどのようにすべきでしょうか。
相続放棄も財産上の行為なので、法律行為を有効に行うことのできる行為能力が必要です。
未成年者はこの能力がありませんので、親権者が未成年を代理して相続放棄することになります。
このケースの場合、妻と子どもが同時に相続放棄すると考えられるので問題はありません。
しかし、子どもについてのみ相続放棄をすることは利益相反行為(民法826条)にあたり、認められない場合があります。
これは、一人の相続人が放棄すれば他の相続人の相続分が増えるので利害対立があるからです。
この判断は形式的になされるので、たとえ妻が借金は自分が払うが、子どもたちには負担させたくないので子どもだけ相続を放棄したいという意図であったとしても利益相反と判断される可能性が高いです。
放棄の時期
相続が開始するまででは、相続放棄は認められません。
父親の借金が多いからあらかじめ放棄をしておこうとしても認められないので、相続が開始してから相続放棄の手続をとる必要があります。
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内(熟慮期間)に申述する必要があります(民法915条1項)。
相続放棄の手続
相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に以下の書面を提出してします。- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票、又は戸籍の附票
- 放棄する人(申述人)の戸籍謄本
- 届出をする人が被相続人の相続人であることを証明するための戸籍
※ 必要な書類は、裁判所のホームページ等でも確認できますが、弁護士に相談いただければ、相続人の調査も含めて放棄した方が良いかを総合的に判断してアドバイスいたします。
相続放棄後に単純承認とみなされてしまう場合
相続放棄をしたとしても、相続人が財産の一部を隠していたり、消費していた場合等には、単純承認したものとみなされます(民法921条3号本文)。
このような背信的な行為をした者に相続放棄の効果を認める必要はないからです。
ただし、相続放棄をしたことによって相続人となった者(次順位の相続人)が相続を承認した場合には、その者(次順位の相続人)を保護する必要があるので、相続放棄をした相続人が相続財産を消費したりしていても単純承認したとみなされることはなく、相続放棄の効果が認められます。
こんなことにも注意
相続放棄をしてしまえばもう安心、そう思っていませんか?実際には、次のようなことも考えておいた方がよいと思います。
- 次順位相続人への連絡
相続放棄をすると、次順位の相続人に請求がされることになります。
例えば、夫の負債を妻と子供が放棄した場合、夫の両親がすでに亡くなっている場合、夫の兄弟に請求が行くことになります。
このとき、事前に夫の兄弟に夫に負債があったこと、相続放棄をすることなどの事情を話しておかないとどうなるでしょうか。
夫の兄弟は、突然夫の負債を負わされることになり、「葬儀に協力したのになんてことだ」と怒り心頭、以後絶縁、というようなことにもなりかねません。
葬儀に協力してもらえるような兄弟であれば、事情は理解しているのでこのような問題が起こることは少ないとも考えられますが、元々疎遠だった兄弟間ではこのような問題が起こる可能性が高いと考えられます。
事前に一言事情を説明し、次順位の相続人にも相続放棄の手続きについて話しておくなどの配慮をしておくとよいでしょう。 - 相続財産の管理
相続放棄をしたからと言ってすぐに一切の負担を免れるわけではありません。
次順位の相続人が相続財産の管理を始めることができるまでは、当該財産の管理をしなければなりません。
例えば、夫が田舎に両親から相続した建物を所有していた場合に、相続放棄をしたが、兄弟に管理を引き継ぐまえに、建物が崩れて隣の家を壊してしまったという場合、まだ自順位の相続人が管理を開始するまでですから、相続放棄をした者がその管理義務を怠ったものとして隣家への賠償の責任を負います。
さらに、次順位の者も相続を放棄して、最終的に相続をする者がいなくなったという場合、相続財産管理人を選任してその処分を委ねるという手続きが必要になる場合があります。
間違わない相続を選びましょう
相続といっても、さまざまな種類があったり、手続を行う期日があります。
期日が過ぎて最適な相続方法の手続をとることができなかったということがないように、相続が始まったときに被相続人が遺した財産をできるだけ早く調査し、間違わない相続の種類を選びましょう。
被相続人が遺した正確な財産が分からない場合や自分に合った相続が分からないなどでお悩みの方は、いわき市の佐藤法律事務所へご相談下さい。
弁護士に依頼することで、正確な財産を迅速に調査し、あなたにあった最適な方法をご提案いたします。