裁判員制度10年
2019年05月24日
弁護士の佐藤剛志です。
裁判員制度が開始されてから10年になりますが、この度、最高裁の事務総局が「裁判員制度10年の総括報告書」という報告書をまとめました。
この報告書はインターネット上で公開されていますので、興味のある方は検索してみてください。
量刑については、殺人既遂や、強姦致死傷が重い方向へ、現住建造物放火が執行猶予の割合が増加するなど、犯罪の重大性や個別の事件の情状などについて裁判員(国民)の意見が反映されている傾向があるようです。
その他に、この報告書の中で、私が関心を持ったのは、裁判員候補者の辞退率上昇・出席率低下の原因についてでした。
裁判員候補者の辞退率は年々上昇し、昨年は67%でした。
また、出席率も低下傾向にあり、平成29年は63.9%まで低下しましたが、昨年は少し回復して67.5%でした。
この原因の分析として
①審理予定日数の増加傾向
②雇用情勢の変化(人手不足、非正規雇用者の増加等)
③高齢化の進展
④裁判員裁判に対する国民の関心の低下
が挙げられていました。
①や④は裁判員裁判の審理を工夫したり、広報に務めるなど、裁判所の側で何とかできる事情かと思いますが、②、③は裁判所の側でどうにかできる問題ではないですね。
特に今後も非正規雇用が増えて行った場合など、裁判員となることができる人が、国民の中でもある程度余裕かつ意欲のある人に限られてくるようになるのではないかと思います。
刑事罰を科される被告人にとっても、被害者やその家族にとっても、そのような人に慎重に判断してもらうのが良いとも言えるのかもしれません。
しかし、「裁判に国民の視点・感覚を反映させる」という裁判員制度の理念からすると、裁判員となることができる人が限定されてきてしまうのは問題かもしれませんね。
なお、裁判員裁判の被告人は千葉地裁が全国で一番多く、東京や大阪よりも多くなっています。これは、成田空港での覚せい剤取締法違反事件によるものだそうです。
ちなみに、福島県では、福島本庁と郡山支部の2か所で裁判員裁判を実施しています。
裁判員制度開始以来の被告人の累計数は、福島本庁では62名、郡山支部では115名と郡山支部の方が倍近くになっています。
他に本庁よりも支部の方が多くなっているのは静岡県です。
管轄区域の人口などが影響しているのでしょうね。