特殊詐欺 受け子 有罪判決 ─ 故意について
2019年02月18日
弁護士の佐藤剛志です。
昨年の12月11日最高裁で特殊詐欺の受け子に有罪判決が下されました。
この事件は、マンションの空き室で住民に成りすました受け子が、現金の入った宅配便を受け取るという手口だったのですが、受け子に詐欺の認識があったかどうかということが問題とされました。
犯罪の成立には「故意」(この内容をどうとらえるかは争いがありますが、とりあえずは「その行為が当該犯罪にあたるという認識があること」と考えておいてください)が必要です(刑法38条1項本文)。
被告人は、箱の中身について拳銃や薬物などの違法な物と認識しており、現金だとは思わなかったとして、詐欺罪の故意がないと主張しました。
詐欺罪は、人を騙して、相手の錯誤の状態を利用して、目的物や利益を得る犯罪です(刑法246条)。
本件では、騙し取ろうとした目的物は現金ですから、「故意」の内容を厳密に考えると、受け取ったものが現金であるという認識が必要になるのです。
そこで、「拳銃や薬物などの違法な物と認識した」という被告人が「騙し取った現金」を受け取ったという認識がなく詐欺罪は成立しないのでないかが問題となりました。
この点、控訴審の福岡高裁宮崎支部は、厳格に考え、拳銃や薬物などの違法な物を受け取る認識があり、犯罪行為に加担している認識があったからと言って、その犯罪に詐欺罪が含まれるかもしれないとの認識は有していないと判断して、詐欺罪の成立を否定しました。
しかし、最高裁は、宅配便を利用して空室に送付させる詐欺の手口と、被告人が認識していた直接財物を受け取るなどの手口は、多数の者が役割分担する中で、他人になりすまして財物を受け取るという行為を担当する点で共通しているのであり、詐欺の可能性を想起できるとして詐欺罪の故意を認めました。
被告人が宅配便の受け取りを指示された際に、他に荷物を回収する者や警察がいないか見張りをする者がいること、逮捕される可能性があることを説明され、約20回このような受け取り行為をしたこと、1回約1万円の報酬を受け取っていたこと等の事情からも犯罪行為の認識を肯定し、上記のように詐欺罪の故意を認めました。
国民の処罰感情を強調すると、犯罪行為の認識があるのだから、故意がないというのはただの言い逃れだ、と思われるかもしれませんが、犯罪の成立を認め刑罰を科すということは重大な制裁を加えることになりますので、犯罪の成立を認めるためには慎重に判断することが必要になり、故意の有無についても慎重に考えるということですね。