民法解説シリーズ 総則編6
2019年02月19日
弁護士の佐藤剛志です。
今回は、「錯誤」(95条)について説明します。
「錯誤」とは、表示行為から推測される意思と表意者の真意とが食い違っており、表意者自身がそれに気が付いていない状態を言います。
例えば、焼肉弁当を買おうと思ってのり弁をレジに持って行ってしまったような場合です。
錯誤の規定は、現行法は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」というシンプルなものです。
ただし、シンプルな規定であったため、判例などで解釈がされてきたため、2022年の改正で以下のような条文に改正されます。
第九十五条 「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
大分詳しくなっていますが、
大きな違いとしては、効果が無効→取消とされたことです。
これは、無効とは本来誰でも主張できるものですが、95条は錯誤に基づいて意思表示をした者を保護することを目的としているので、「取消」としたのです。
また、「要素の錯誤」というのが何か分かりにくかったことから、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」という分かりやすい表現にしました。
2項は、いわゆる「動機の錯誤」というもので、意思と表示に食い違いはないが意思の決定の過程に瑕疵があるものです。
例えば、近くに駅ができるので客足が増えると思ったので、店舗を借りたが計画が中止になったというような場合が考えられます。
この場合、駅ができるから買うということを買主が示していれば、それが「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」といえるので、錯誤にあたり取消が可能となります。
ただし、およそ近隣の相場に照らして高額な代金で買主が買うとした場合は、売主としてもなぜこんなに高い金額で買うのか、なるほど近くに駅ができる噂を信じているのか、などと分かることがありますから、この場合少なくとも、相手方に重過失があることになり、取消を主張できると考えられます(3項1号)。