再転相続の場合の相続放棄の熟慮期間の起算点(最高裁令和元年8月9日判決)
2019年09月05日
弁護士の佐藤剛志です。
令和元年8月9日に、再転相続の場合の相続放棄の熟慮期間に関する最高裁判所の判決が出されました。
まず、「再転相続」?、「熟慮期間」?と思うかもしれません。
「熟慮期間」とは、相続の放棄や限定承認を選択できる期間で、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内とされています(民法915条1項)。
この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡等)および②それによって自分が相続人となったことを知った時をいうとされています。
「再転相続」とは、Xの相続人Aが、Xの相続につき承認・放棄をしないまま熟慮期間内に死亡した場合には、Aの相続人であるBは、Xの相続についての承認・放棄をする権利を含めて、Aの権利義務を相続するというものです。
この場合、Bは、X及びAの相続について、承認・放棄の選択をすることができます(民法916条)。
本件では、民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」という熟慮期間の起算点が問題になりました。
事案は、
①H24.6.3 X(Bの叔父)が死亡
②H24.9 Xの妻子が相続放棄
③によりXの兄弟が相続人となるが、A(Xの弟)以外のXの兄弟全員がH25.9に相続放棄
この際Aは自身がXの相続人となったことを知らなかったため相続放棄をしていなかった
④H24.10.19A死亡により、Aの子BがXの相続人となった(ただし、この時点ででは、BはXの相続人となったことを知らなかった)
⑤H27.11.11 BがAの債権者から請求を受ける(承継執行文の謄本の執行を受ける)。この時点で、Bは、自身がAからXの相続人としての地位を承継した事実を知ったことになります。
⑥H28.2.5 A相続放棄申述(12に受理)
というものです。
原審の大阪高裁は、916条は、Aが自己がXの相続人であることを知っていたが、相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであり、AがXの相続人となったことを知らずに死亡した場合には、適用されないと判断していました。
この場合には915条が適用されるとし、BがAからXの相続人としての地位を承継した事実を知ったときから起算されるとしました。そして、熟慮期間内に放棄がされたものとして有効に放棄がなされたと判断しました。
しかし、最高裁は、Aが自己がXの相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されると判断しました。
民法916条の趣旨は、再転相続を受けたBがXからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することであり、BがAがXの相続人であったことを知らなければ、Xからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないという理由で、民法916条の適用があるとしました。
本件の事案では、結論としては、いずれも再転相続人Bは熟慮期間内に相続放棄をしたとして、債権者からの返済を拒むことを認めましたが、その理論構成が原審と最高裁で異なりました。
普段交流のなかった親族の借金についていきなり相続によって負わなければいけないという不都合を避けるという判断があったといえるでしょう。